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「佐野君、ごめんな」井上尚弥VS佐野友樹の試合をレフェリーが止めた理由

管理人

「佐野君、ごめんな」井上尚弥VS佐野友樹の試合をレフェリーが止めた理由

「佐野君、ごめんな」

1回。井上の天高く突き上げるアッパーを食らった佐野は右まぶたを切った。「パンチをもらった右目だけではなく、なぜか左目までも見えなくなった」という衝撃の一撃だ。

こんなに早く切ったから、もしかしたら、早く終結するのかなと、思いましたね」

 2回に佐野が左フックを浴びてダウン。4回には佐野が右ストレートを放ち、井上はそれを避けながらワンテンポ遅れた絶妙のタイミングでカウンターの左フック。井上が再びダウンを奪った。

 中村は冷静に裁きながらも、この攻防を間近で見て驚いた。

「あの佐野選手の右ストレートに合わせた左フックは凄いなと思いました。佐野選手のパンチがね、どちらかというと手数を出すためのパンチで肩をグッと入れていなかった。それでも、こんなパンチにカウンターを合わせるんだなと。いろんなダウンがあるんですけど、ああいう(カウンターの)タイプは見たことなかったんです」

 左フックをもらった佐野は平衡感覚を失い、足元がばたばたとなり、体勢を立て直せないまま、崩れ落ちるようにダウンをした。

 1回にカット、2、4回にダウン。中村は次の展開を想定した。

「早い段階で2人の差がはっきりしていた。もし、次に打たれるようなことがあればストップしないといけない。これ以上、佐野選手にダメージがあったら止めないといけないな」

 試合を止めるタイミングを逃すまいと食い入るように2人の攻防を凝視する。

「でもね、佐野選手はボディワークを使って、致命的なパンチを食っていないんですよ。うまくパンチをやり過ごしていた。ちゃんと動きを見ているんです。目が死んでないなと思いましたね。ここでは止められないなと」

 3回に右拳を痛めて左手一本で闘う井上。パンチをもらいながらも必死に向かっていく佐野。序盤の大きな波が過ぎ、試合は後半戦に入ろうとしていた。

「井上選手は右拳を痛めたこともあるんだろうけど、当時は4回までのパターン以上のものを持ち合わせていなかった。5回以降は、4回までのボクシングの繰り返しになる。そうすると佐野選手はパンチの強さにも体が慣れてくる。実際、頭で考えていることと、ボディワークがきちんとつながっている感じがしたんです。さすがベテラン。ある意味、井上選手にレッスンしていることになりますよね」

両者の動きに神経を注ぐ。だが、中村は井上が右拳を痛めたことには気づかなかった。

「そういう観点では見ていないので。わかる人もいるらしいですけどね。まあ、ポイントでいったらずっと井上選手だし、試合の流れだって、佐野選手に行くことはなかったですよね」

 9回。このラウンドの後半から佐野の反応が鈍くなっていくのを感じた。

「パンチの見切りが悪くなったんです。ジャブが来ても頭を振るとかパーリングとかそういう反応が鈍ってきたなと。次にグラッときたら止めた方がいいなと思い、最終回を迎えました」

 佐野が粘って判定までいくか。井上が仕留めてKO決着となるのか。

 佐野の被弾が多い。左フックをもらい、ワンツーも浴びた。その瞬間、中村が右手で両者の間に割って入った。判定決着まであと1分51秒のところで試合を止めた。

「あれは4回にダウンしたパンチと同じシチュエーションなんです。佐野選手が右ストレートを出したところに井上選手が左フック。佐野選手の体が一瞬泳いだから止めたんです」

 最も間近にいる中村から見ても最後まで佐野の目は死んでいなかった。意識も飛んでない。だが、平衡感覚は狂ってみえた。

 力の抜けた佐野を抱きかかえるようにして、耳元でささやいた。

「佐野君、ごめんな」

 咄嗟に出た言葉だった。佐野と2歩、3歩と一緒に歩き、コーナーまで連れて行く。

 そのとき、佐野が言った。

「やっぱり、だめですかね……」

 中村の耳には届いたが、TKO決着による歓声と、試合を止めたことに対するブーイングでその後の2人の会話はかき消された。

ニュース記事のコメント欄で目にした猛烈な批判

佐野は試合から10年以上経っても、「佐野君、ごめんな」の言葉が耳から離れない。

「もっと闘いたい、KOされることなく闘い抜きたい。その気持ちをレフェリーも分かってくれていたんだと思います。まだ、できたと思う。でも、あの展開なら仕方ないですよね」

 一方のレフェリー・中村は選手の気持ちを汲み取り、声を掛けた。

「あと2分弱で判定までいく。そこを止めた。本人は倒れるまでやりたいだろうけど、ダメージを考えるともうやらせてあげられなかった。何かを伝えてあげたいなと思うくらいの頑張りと、彼はベテランだから、声を掛けてもちゃんと受け入れてくれるだろうと。一瞬のうちに、言葉になって出たんだと思います」

 試合が終わり、中村はインターネットの佐野vs.井上のニュース記事を読んだ。何気なく下のコメント欄にスクロールしていった。

「試合を止めたことが、くそみそに書かれていたんですよ。佐野選手のダメージと試合展開を含めて、ここだな、と思って止めたんですけど、テレビで試合を見た人は違うように感じたみたいでして……」

 レフェリーが褒められることは、ほとんどない。批判にさらされることが多い。

「悪者になってもいいんです」

 中村はそうつぶやいた。辛くて厳しい。割り切らないとやっていられない仕事でもある。

https://news.yahoo.co.jp/articles/9288c50fdbc2770527c2217acf899cf5726e49c6

みんなの反応はこちら

1:名無しのボクシングファン
レフェリーというのも厳しい仕事ですよね。早く止めたら「まだやれる」「なぜ止めた」と言われ、遅く止めたら「何やってたんだ」「選手を殺す気か!?」と批判される

2:名無しのボクシングファン
素晴らしいレフェリーですね。
私はあの試合を何度か見ていますが、普通に正しい判断だと思いました。

あのまま継続していたら、まともにパンチをもらい続けて深刻な状態になっていてもおかしくないし、誰が見ても佐野さんの逆転はない。

3:名無しのボクシングファン
ボクシングは最後まで立っていればいいスポーツではないので。
レフェリーは選手の命を救う仕事でもあるので。

4:名無しのボクシングファン
こうやって自分のジャッジに自問自答するレフェリーなんて最高やと思う。
プロ野球やJリーグにいがちな
明らかなミスしといて抗議されたら選手退場させて終わりのレフェリーもいるし

5:名無しのボクシングファン
自分が選手なら、レフェリーにそんな謝り方はされたくないかな(ミスを誤られるなら、ともかく)。
毅然とした対応であってほしい。

6:名無しのボクシングファン
「佐野君、ごめんな」は一番近くで見ていた審判だから言えた言葉でしょう

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